議会報告ASSEMBLY REPORT

2010.02.23 カテゴリ:平成21年11月定例会 地域医療再生について

 医療は県民が安心して生活する上でもっとも大切な柱であります。奇しくも本県は、大淀病院で妊婦が脳内出血を発症し懸命の救命措置も実らず大阪府の国立循環器病センターで死亡した事例によって、このような悲劇を繰り返すことなきようにと、周産期医療体制だけでなく救急医療体制など奈良県の医療のあり方そのものが大きく問われる事態となりました。それ以降、荒井知事をはじめ、医師会や奈良県立医科大学をはじめとする関連機関の医療従事者の皆さん、また各市町村単位において県民の間でもシンポジウムなどが盛んに開催され、奈良県全体で医療体制の問題に取り組む機運が高まりましたことは皆さんもご承知のことと思います。しかし、このたび発表されました地域医療再生計画案を拝見しますと、大淀病院の事例以降ではなく、それ以前から提言されてきたこと、あるいは問題視されてきたことと大きく鮮明な違いを見つけられないのが残念です。
 また大変遺憾に感じますのは、この計画案でもやはり奈良県南部に対する具体的な施策、大きな方針がほとんど示されていないことです。基本的に現在の県の医療圏、奈良・西和医療圏の北和と、東和・中和・南和医療圏の中南和という線引きそのものに大きな無理があるように思えてなりません。線を引くのであれば、地域の実情に応じた地域ごとのきめ細やかな具体策を提示していただきたいと思います。南和医療圏は吉野郡全域ですが、これは県の半分を占めるあまりにも広い面積です。また、鉄道ばかりか道路事情も悪いこの地域は、住民が病気をした場合、一次診療の開業医を受診することさえ困難な地区も数多く存在します。その中で、県立医科大学付属病院がマグネットホスピタルとして高度医療の拠点病院とされていますが計画案を拝見しますと、県立医科大学付属病院は南和だけでなく、東和・中和をも含む広い範囲の拠点病院となっています。果たして、県立医科大学付属病院だけでこれだけの範囲の重症患者の診療をまかなえるのでしょうか。
 今、ただでさえ医師不足が叫ばれる昨今です。医師だけでなく医療従事者全体の不足が問われています。特に救急患者を受け入れ、重症の入院患者を抱える病院は医師だけでなく看護師や技師、薬剤師、事務員などより多くのマンパワーを必要とします。どんなに最新技術を導入しても、ベッドの数を増やしても、そこで働くスタッフが不足していては機能を果たすことは出来ません。医師・看護師の養成・確保として、派遣システムの整備などが計画概要に示されていますが、医療の質を保つ上でも最も重要なスタッフを定着させるためにも人件費の確保は最大の課題であると考えます。ただでさえ財政が逼迫しているわが県において、医療スタッフの養成・確保にかかわる費用、その雇用にかかる費用をどう確保するのでしょうか。具体的な指針をお示しください。これらが曖昧な状態では、計画案もすべて理想だけに終わってしまいかねません。これでは今までの繰り返しです。一歩でも二歩でも奈良県の医療を前進させるためにもぜひ財政面での努力をお願いします。また、マグネットホスピタルの指針に「重症な患者について断らない救命救急室の整備」とありますが、これは言い返せば今まで断ってきた例があるということでしょうか。では、断った理由とは一体何なのでしょう。その理由を克服しない限り、あの大淀病院の事例のように再び同じ悲劇が起きかねません。私は奈良県南部で暮らす中、救急搬送されたものの「県立医大は大学病院なのでカルテがないと重症の場合も救急で診てもらえない」という声で、自分たちの緊急時本当に医大で診てもらえるのかという不安が住民の間にあるのも事実です。そこでお伺いします。県立医科大学が救急受診を断った例、また断った理由には今までどのようなものがあったのでしょうか。「断らない救急」を目指すという以上は、マグネットホスピタルの受診のシステム、仕組みはどのようになっているのか。今までの課題は克服できるのか。いわゆる5疾患の生命にかかわる重症患者は本当に必ず診察してもらえるのか。県民が安心して受診できるためにも情報をしっかり開示していただきたく、説明とご回答をお願いします。ところで、奈良医療圏、西和医療圏にはマグネットホスピタルとされる県立奈良病院以外にも、県立三室病院や近畿大学奈良病院、東和になりますが、奈良市に隣接して、民間の天理よろず相談所病院など全国でも有数の高度な機能をもつ病院があります。しかし、南和地域は高度医療に対応できる病院はなく、中和の橿原市にある県立医科大学が唯一の施設です。そんな中、重要になってくるのが三次救急の前段階の二次医療機関です。南和地域では、公的医療機関として県立五條病院や吉野病院や大淀病院があります。これらの病院は一次、二次医療の拠点として、地域住民に頼りにされていますが、現在、過疎化による財政不足などから存続の危機に立たされています。また今まで県立医大から派遣されていた医師の引き上げなど医師不足、診療規模の縮小もあり、慣れ親しんだ医師がいなくなり、診療科が減っていく現状に地域住民の不安は増大するばかりです。住民たちは今まで受診していた医師を追いかけて他の医療機関を受診することになり、さらにその病院の患者数が減っていくという悪循環に陥ってしまいます。三次救急の整備、マグネットホスピタルは医療の中枢基幹として非常に大切ですが、重篤な状態に陥る前に身近な医療機関で適切な治療を受けられることこそ住民の健康管理に大切なことだと考えます。普段の健康管理、風邪や慢性疾患の管理はやはり地域に根ざした病院が重要な役割を果たすものです。身近な開業医も高齢化していく中、南和地域において二次医療機関は地域住民が安心して地域で生活する上でも本当に大切な存在であります。三次救急の必要性とあわせ、是非とも二次医療機関の整備についても市町村と連携し、真剣に取り組んでいただきたいと思います。二次医療機関の維持を県としてどう考えておられるのか、地域医療再生計画案だけではいまひとつ伝わってきません。計画案であげておられる病病連携、病診連携を推進するためにも市町村との連携を深め、財政を確保し、現時点でどのような取り組みを進めておられるのかご回答をお願いします。最後に、奈良県立医科大学の教育部門の高山地区への移転計画についてお伺いします。現在の医科大学は県中心部の橿原市にあり、県北部、南部双方へのアクセスも容易で、学生たちも県全体の幅広い地域の住民と触れ合うことができます。北和・中和だけでなく、宇陀市立病院や五條病院、吉野病院や大淀病院という東南和の施設にも学生や医師たちが気軽に向かうことができる範囲です。しかし、高山地区に移ってしまった場合、どうでしょうか。病院と教育施設がこれだけ離れてしまえば、学生たちは県の中南和や東和地区に行く機会も、地域の住民と接する機会も極端に減るでしょう。そのような環境で学生たちは奈良県に親しみを覚えてくれるでしょうか。奈良県で働いてほしい、県民の医療に尽くしてほしいと願っても、学生たちや医療従事者の間に県に対する愛着がなければ彼らの中には沸いてこないと思います。高山地区に教育部門を移すのであれば、橿原の地には病院が残ることになり、県は高度医療拠点病院として、一層の充実整備を図るものと言っているが、実際にどうなるのか、県民の一人としてとても不安に感じています。県は、県民に対してそのメリットとデメリットを説明する必要があり、その不安に対しても十分に配慮すべきと考えます。去る11月20日には、橿原市議会でも、県立医科大学移転計画の見直しを求める意見書が決議されたところであり、県民は、今回の移転計画について関心をもって注目しています。県立医科大学の入学者には県外出身者も多く、現在、スタッフとして大学で活躍している医師たちにも県外出身者が数多くいます。彼らが奈良県に住まいを持ち、奈良県で後進の育成に従事し、県民医療を最前線で守ってくれるのも、彼らの中に県や地域に対する愛着があるからこそだと私は信じています。地域医療に従事する医師を育成するならば、医療技術や知識だけでなく地域にたいする理解や愛着を育てなければ大きな実りにならないと考えます。医療の問題、住民の健康は奈良県そのものの健康なのだという視点で真摯に取り組んでいただきたく、願いをこめて質問とさせていただきます。

■荒井知事の答弁


 まず、医療スタッフの養成・確保を図るための県の取り組みという重要な事項でございます。県立医科大学及び付属病院は、本県の中南和地区における高度医療拠点として、また本県で唯一の医師養成機関として、地域の医療を支えてまいりました。今般、県が策定し国に提出した地域医療再生計画案では、これらの機能をさらに充実強化していくことにしております。主な取り組みの1つですが、県立医科大学付属病院を高度医療拠点として整備するものでございます。重症な疾患について断らない救命救急室の設置や、周産期医療センターの充実設備などを実現したいと思っております。それらのことにより県内で不足している医療サービスを充足するという目標と、それとともに医師や看護師などの医療従事者にとって、臨床や研究の場として魅力的な病院、いわゆる医師・看護師を寄せつけるマグネットホスピタルになることにより、医療従事者の確保を図っていく考えでございます。
 2つ目の主要な点ですが、地域の病院等への医師派遣の仕組みを構築したいと思っております。県立医科大学に地域の医療状況を研究するとともに、地域の病院等に派遣した医師を指導する機能を有する講座を新たに設けて、医師を円滑に派遣できる仕組みを構築したいと考えております。また、そのような医師のプールができましたら、プールのたまった医師派遣を確実にするため、県と県立医科大学と派遣される病院設置者による協定をつくる考えでございます。この協定による医師派遣のシステムは全国的にも珍しいやり方でございますが、三者が必要な医師の数をまず最初に確認いたしまして、表を作って確認した上で県立医科大学に必要な医師の派遣の義務を負ってもらうという性格の協定になるものでございます。
 医師確保の3点目のポイントは、奨学金による人材確保の拡充でございます。今回、本議会に関連の議案を提案させていただいておりますが、奨学金の返還免除要件に救命救急センターを加えたいと思います。これは、救命救急センターに就職すると奨学金を返還しなくてよいという条件にあるものでございます。そのようなことを行うとともに、さらに県立医科大学の奨学金をもとに入学される入学定員を10名増やす、近畿大学医学部の入学定員を2名増員することにより、貸与者を拡充し人材の確保を図っていく考えでございます。貸与者は、卒業後9年間は医師の不足する分野に従事する義務が発生いたします。このような数の増員要求は全国の県の中でも最も多く要求した県になっておるわけです。このような奨学金を貸与するとともに、県立医科大学の入学定員を最大限増やすことによりまして、ピーク時、最大たまりプールの満水時でございますが、平成37年度には100名を超える医師が確保できます。そのような医師は、県下の必要な診療科、必要なへき地、必要な地域の病院に県が指示して派遣できる仕組みができることにまります。
 4点目は地域医療に従事する医師のキャリアパスの構築でございます。育て方の問題でございます。医師養成機関、研究機関という医科大学の特性を生かしまして、医師一人ひとりの将来設計に即したキャリアパス、研修、育成の仕組みの構築や検証等を行っていきたいと思います。また、へき地医療につきましても本年度から総合医を養成するプログラムを始めました。そのようなことで、医師の養成・確保に取り組んでいきたいと思います。看護職員につきましても、研修の支援を行うなど、キャリア形成に取り組んでいるところでございます。これらは大変新しい仕組みも入っておりますが、取り組みにより県内の医療従事者を安定的に確保する体制を来年中に構築してまいりたいと考えております。次に、断らない医療とはどのような仕組みなのかという質問がございました。これまで県内で救急患者が、救命救急センターを含め複数の病院に受け入れを断られ、たらい回しと言われる事案がたびたび発生していました。また救急搬送時間も、決していい搬送時間にまだなっていない事実がございます。その理由として、専門医が不在している、他の患者の処置中といった受け入れ体制の断り方、また、軽症者の病院への集中によって、病院が救急の受け入れができないという事情がしばしばあるといったような課題が発生しております。そこで、マグネットホスピタルと言われる高度医療拠点病院における、断らない救命救急室の発想でございますが、これは一次・二次の救急機関とマグネットホスピタルの連携によって構築されるシステムでございます。断らない救急を実現するには、いろんな仕組みがございますが、まず救命救急室ではあまり手術をしない、来られた人にいつも医師と病床があいているようにする。これは事業仕分けではありませんが、患者仕分けをするという性格が強く出てまいります。トリアージと呼ばれる機能でございます。
 さらに、患者仕分けをした患者さんが緊急の手術を要する患者さんは救命救急室の後ろで手術ができる専門医が待機されているといったことが望ましいわけでございます。専門医がいない場合には、救命救急室で手術をされるといったようなことも必要が生じるとも思います。まずそのようなことを前提にして、救急患者がどのような症状であっても、来られたらその症状に応じて適切な医療機関へ搬送、誘導するルールづくりが必要だと思います。
 これらを構築した上で、特に心筋梗塞や脳卒中など、命にかかわる重篤で一刻の猶予も許さない疾患の場合、あるいは地域の医療機関がいったん受け入れた患者が重症化し、手に負えなくなった場合、そういった場合にはこのマグネットホスピタルが非常に意味があることになります。必ず受け入れ体制をとるということを標榜して連携をすることになります。このような仕組みが断らない救急の仕組みでございます。そのため、断らないマグネットホスピタルには、救急医や専門医を確保し、救急隊や医療機関からの依頼は特に絶対に断らない体制を確保するつもりでございます。
 次に地域医療について、南和の医療を例にとって特に身近な医療に触れながら熱心にお話になりました。医療の需要が散在しており、サービスの密度が十分でない地域の医療にとりましては、連携というのがキーワードになると思います。県、市町村、県立医科大学付属病院、県立病院、公立病院、開業医が連携をとって地域医療を支える仕組みが必要であり、そのようなことをつくりたいというふうに思います。今まで紹介しました県の地域医療再生計画におきまして、特に必要とされる救急についてでございますが、脳卒中、急性心筋梗塞、重傷外傷など、急がないと命にかかわる疾患についての不安が発生いたしますので、高度医療拠点病院と地域の病院や診療所との診療連携、ネットワークをつくって確実に患者を受け入れ、診療する仕組みを構築したいと思います。これによりまして、救急医療提供の体制、南和でも北和でも欠けておりますが、県内全域の円滑な救急医療提供を図っていきたいと考えております。
 その他の疾患も含めた地域医療体制の維持をどうするかですが、特に過疎地域サービス、人口が低くサービスの密度が低い過疎地域におきましては、それぞれ一つ一つの病院ですべての治療を賄うというのは難しいというのが実情でございます。それぞれの病院の機能について、関係する自治体や医療機関が十分協議し、役割分担について検討することが必要であろうかと思います。
 特に県は、公立病院間の役割分担を明確にし、その案に沿った病院経営を確実に実行する必要があると思いますがそのために、病院開設者との間で協定を締結し、重症疾患の診察連携、ネットワーク化を推進したいと考えております。地域医療連携協定といったようなものでございますが、これは全国でも珍しい試みだと思います。現在、各公立病院及び設置者との役割について協議を始めているところでございます。
 特に南和地域につきましては、周辺人口の減少に伴い症例が少なくなっております関係もあり、医療従事者が退職し、さらに患者が減少するという悪循環の事態が生じております。このため、特に南和における関係病院及び市町村と各病院の現状を示しあって各病院の役割分担、具体的なプランづくりについて協議を始めたところでございます。南和の地域医療体制の構築につきましての今後の構築のめどでございますが、今まで申し上げました医師派遣や救急、重要疾患の連携など地域医療の体制の構築につきましては、来年度中の確立を目指して努力していきたいと考えておりますが、南和の医療体制についてもそれと並行して体制の構築を図っていきたいと思っております。
 今後引き続き、関係者と協議し、地域の人々が確実に治療を受けられる体制の構築に向けて取り組んでまいりたいと思います。最後に、県立医科大学の移転場所については、大変大きな問題でございますの で、いろんな考え方が発生するかと思います。
 先ほど述べましたように、県内の医師供給をどのようにするか、地域の医療の提供体制をどのようにするか、また、特に橿原市における病院の敷地が狭隘だということが、そもそものいろんな検討すべき要素が発生しているわけでございますが、病院の今後をどのように整備していくかなど、多数の要素があると思いますので、それらを整理した上で、プロジェクトチームの中で議論し、また議会の皆様に選択肢として提示をさせていただきたいと考えております。

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